そのときは彼によろしく
アクアショップの店長を勤める主人公が恋人へ、自分が中学生の頃、水辺の秘密基地で仲の良かった友達二人との出会いや過ごした一年を話すところから始まる。
ゴミの山で作ったリビングで、一風変わった少年少女が同じ時間を過ごした…お互いの良さを認められる三人。今もそのときを忘れずにいる。
今回も市川さんワールドを堪能。
十四歳という多感な頃、一緒に過ごした日々、大切な友人・初恋の人、その思いを十五年経った現在も大事にし続けられる秘めたる想い。目に見えない形のない大事なものをいつも思い続ける…その思い出があるこそ今の自分がある。自分の生きてきた人生を誇りとしている主人公は、市川作品共通するように思う。
毎回市川作品を読むたびに号泣してしまう私だけど、今回は泣くことはなかった。
この主人公が絶対中学生の頃の事を忘れることも、今の生活をなげうって何かをする、ということが無いと早い段階で思えたから。もうこの主人公に戸惑いはなく、誰かに否定されようがその場所がなくてもずっと離ればなれになっていても心が落ち着いているようだったから。
変わるものと変わらないものが同時にある。
主人公が感じたものを、読み手も感じられる一冊。
>9点