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『雲を斬る』 池永 陽  講談社

雲を斬る
雲を斬る

父の仇を探しに来た江戸で、寺子屋の師範をしながら、道場破りで日銭を稼ぐ由比三四郎。次々に舞い込む刺客と難題に、必殺剣法と優しさで乗り切るが…。江戸の町を舞台に、優しさと切なさの人間模様を描く時代小説。

初の時代小説ながら第12回中山義秀文学賞を受賞しているこの作品。
帯に『池永節まさに満開!』とあるが、腕っ節は強いが女に弱い、この女がまたワガママな娘で…。この手の話が得意というか、ひょっとしたら時代小説向きなのかな?
主人公三四郎のことが好きだけれど、いつもうやむやにかわされてしまうおさと、空を飛びたいと日々研究している隣人・巳之吉、いつも三四郎の話し相手となる寺の住職・快延という脇役達と、勝負を挑みに来る者たちなど、それぞれに個性がハッキリしているし、短編連作となっていて、とても読みやすく、三四郎が繰り出す父親直伝の『氷柱折り』という技が光ります。
また、巳之吉がなぜ飛ぶことに拘るのか…これにも惹かれます。
表紙のように清々しい物語です。

9点
2007.01.07 Sunday 00:25 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『ペダルの向こうへ』 池永陽 光文社

ペダルの向こうへ
ペダルの向こうへ

妻と息子が乗っていた車が交通事故を起こし妻は即死、息子は辛うじて生き残ったが…。
母一人だけ死なせてしまった事と片足切断というダブルのショックから息子は登校拒否となってしまう。また父洋一は運転を代わってと頼まれたにもかかわらず愛人の方へ行ってしまったことや、普段仕事人間で家族に関わる事も無かったことなど、妻や息子に負い目があった。そこで洋介は息子と二人で自転車で母の故郷沖縄へお骨を持っていくことにする。
義足をつけた息子との自転車の旅を続けるあいだ、行く先それぞれで色んな人に出会う。その土地の方言で語りかけるその人たちの境遇は、この親子に似た何かを持っていたりする。その経験をした人にしか分からない感情を共にする事により、自分の活路を見つけていく。教えられたり教えたり…相手を励ます事が自分の励ましにもなる。

父親って、息子と同じ体験をしたい…というか一緒に何かをしてみたいと思うものなのかな?言葉で諭すより一緒の経験をする事で意気投合する〜というような。
行く先々に似たような経験をもつ人達に出会うので、ちょっと出来すぎな出会い方のような気もするけど、この事情を聞いた人の大半は深く踏み込めずお気をつけてぐらいにしか声も掛けられないかも知れない(前向き解釈/苦笑)それと毎回起きる出会いと別れには、時には綺麗だけではない洋介の裏工作があったりする。たとえば息子が生まれる前に訪れた場所。事実だけではない事も息子には話を付け加えて説明している。事実も美談に変えてしまう作戦が私には気に食わないが、返せばそんな上手い話はないんだよ〜ということなんだろう。他にもあったけど、大人の事情もありつつ、息子や子ども達には見せない部分もある・・その父としての姿と一大人としての部分が交互に描かれていたのは池永さんらしいのかも。

うむ…それでもやっぱり洋介は好きにはなれないが、息子は立派に育っていくのだろう。無茶も経験なくしては得られないものがあって、息子はそれを得られたのだから。

8点
2006.06.12 Monday 11:16 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『殴られ屋の女神』 池永陽 徳間書店

殴られ屋の女神
殴られ屋の女神

7編の短編連作。
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なぐられ屋。一発千円、ただし女性の方は半額。日頃のウサ晴らしにぜひどうぞ。ハードパンチャー大歓迎、一発でKOした方には十万円進呈!
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会社からリストラされ再就職もできず妻とも別れ出てきてしまった須崎は、愚連隊にいたぶられる豊を助けた縁で、彼のマンションに同居しながら、山手線の恵比寿駅西口にあるゑびす像の前に看板をだし殴られ屋を稼業としている。昔ボクシングで鍛えているので倒れない自信はあるが、昔、義母に殴られた時、気絶する前に見た白い女神のようなモノをもう一度見たいという理由もあった。

中学生・教師・老人・ヤクザ…と彼らのもとに集まり殴る。殴りたい理由はさまざまだ。そっけない態度を取りながらも殴る相手の気持ちを探してしまう須崎は、自然とお客の相談や話を聞いてしまう。彼らの相談を聞きながら「死ぬために生まれてきた犬」と同じ自分達をも立ち直らそうとする。しかし立ち直る作業は反対に自分を自分で苛めてしまうことなのだ。なんとも微妙な精神でバランスを取り合う二人は、とても危うい関係だったのかもしれない。

痛みの向こうにあるもの、白く浮かび上がる女神は何なのだろう。義母への想いか元妻への愛情か、それとも…。
腕っ節は強いが優しすぎる須崎。人は救えても自分は大丈夫なのか?切な過ぎる主人公だ。。

9点
2005.04.21 Thursday 20:38 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『ゆらゆら橋から』 池永陽  集英社

ゆらゆら橋から
ゆらゆら橋から

8編からなる短編連作集。

<<人は一生に何度、恋をすることができるのか >>

・・・ゆらゆら橋を渡って来た女性は、またこの橋を渡って出て行くんだ・・・
淡い憧れをいだいた先生を見つめていた五年生の主人公。
結核を患った為に田舎町に療養に来た女の子への想いをはせた中学三年生の主人公。
…と、一章ごとに歳を重ねながらその時愛した女性とのことを描いた恋愛小説。

田舎に住む純情で真面目な主人公が、中学三年の時に強烈な恋愛体験をする。その彼女のことをずっと高校になっても大人になっても、・・・幾つも重ねた恋愛経験の中でもずっと引きずってしまうのは、主人公の恋愛の基準を最初に出会った女の子で作り上げてしまったようだ。純粋だったころから年を重ねる事に少しずつズレた恋愛感を持つようになるのは、段々美化してしまうからかな。

池永さんの作品はいつも頼りない男性が主人公、というのが多いだけど、今回は少し良かったかな。5年生から50才代まで、主人公は変わったのか変わらなかったのか。感動して泣ける・・・というのはないが、切なくて、でも目が離せない。良かった。

9点
2005.01.25 Tuesday 06:03 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『となりの用心棒』 池永陽 角川書店

となりの用心棒
となりの用心棒

 婿養子に入った巨漢の勇作は一念発起して空手道場をオープン。気の優しい勇作はたちまち商店街のよき相談相手に。が、肝心の門下生は思うように集まらず…。情に脆くて女にちょっぴり弱い、ユーモアヒーロー小説。

…やはり今回も優柔不断な男でしたか(笑)
沖縄生まれで武術に猛け、アメリカに渡っては命知らずとまで言われた勇作。色んなジャンルの格闘家達と戦ってきたが、ある日殺意を覚えた相手に三年殺しの技をかけてしまった。…その技をかけてから、もうすぐ三年・経とうとしている。。

そんな過去の事を持つ勇作だが日本に戻れば、無口な性格が女性陣に押されてしまってすっかり大人しくなってる。このギャップが面白い。
ニューヨークでストリートファイトをしていた勇作が、今では商店街の中にあるブランド道場の先生となっている…(笑)勇作も、何故こういう風になっていくか判らず、戸惑って自問自答してるのがおかしい。。

主人公が面白い訳ではないけど強烈な個性があり、なぜか笑える。池永さんにありがちなドロドロ…は今回は無いので、多少人に薦められるかな(苦笑)

7点
2004.10.19 Tuesday 17:46 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『指を切る女』 池永陽 講談社

指を切る女
指を切る女

4編からなる短編集。
女性が男性に振り回され、いい加減嫌になりながらも、付き合いを続けてしまう。
強く頑張っていても、弱さが出てしまう。その弱さを利用され男性に頼りすぎていて、ちょっと嫌かな。

救われる訳でもなく感動もない。大人の恋愛としては綺麗ではなくドロドロしていて、視野も狭い。
男性が求める女性像なのかな?もっと女性は強いと思うけど。

7点
2003.12.20 Saturday 08:46 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『アンクルトムズ・ケビンの幽霊』 池永陽 角川書店

アンクルトムズ・ケビンの幽霊
アンクルトムズ・ケビンの幽霊

 西原が勤める鋳物工場に働くタイ人達は、不当な給料未払いを受け貧困な生活を送りながらも肩を寄せ合って生きている。彼らのアパートに差し入れをして見守っているが、実は西原が中学生だった頃、生れ育ったマンガン鉱山に引っ越してきた朝鮮人の母子を重ね合わせていた。
 初恋の相手スーインが、同じく貧困や差別を受けながらも、強く輝いている様子は少年の心を奪うものだった。ただ、純真な為にすべての事が衝撃的に映ってしまう。最後会った時の心残りを30年以上たった今も心にとどめたままだった。。

 彼らの淋しさを語り始めたらキリがないが、苦労・苦難のなか必死に生きている、という方を強く書いているところが、暗くさせず本筋から話が逸れなくて良かった。
 スーインが、思い出のハーモニカで演奏するシーンは印象的。
 シンプル(余分な文章が無い)なので、読みやすく話に入りやすかった。また現実の問題として悩む主人公に、おでん屋の女将や路上で出会ったフウコが、掛ける言葉が良い。

またイイな〜と思える本に出会ったかな?
10点
2003.05.13 Tuesday 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『走るジイサン』 池永陽  集英社

走るジイサン
走るジイサン

「頭の上に猿がいる」の書き出しにビックリするが、猿には全然拘ってない。
主人公作次と息子夫婦の同居生活を、自分が子供のころの祖父と母親の介護にダブらせてたり、茶のみ友達を見ながら自分を見つめたり…作次が、今感じている心の内を、そのまま書いてある。
話に盛り上がりがある訳でもなく、過ぎていく日々を追っているだけなんだけど…
年老いた人も悩み考え生きている、読了後も心に残る話だった。

8点
2003.03.28 Friday 08:42 | comments(0) | trackbacks(0) | 
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