悪人
保険外交員の女が殺害され、捜査線上にある男の存在が浮かぶ。そして、その男と出会ったもう一人の女。なぜ事件は起きたのか? 加害者、被害者、その家族たち、1つの事件の背景にあるさまざまな関係者たちの感情を静かな筆致で描く。
なかなか厚い本でしたが、一気に読ませる勢いのある作品。
そして登場人物も結構多く出てくるが、どの人物もしっかりとしたキャラクターを持っていて、個々に個性と自分を持ちながらも周りの人間と共存している。ただ主人公達はその共存が上手くいかなかった〜という感じかな。
この小説は生活感がとってもあってリアリティがあるだけに、グッと引き込まれてしまう。主人公達は成人となっているけれど、まだ未熟な部分も多く、恋愛事に関しては突っ走ってしまう若さがある。それだけに間違いもあるのだけど。
桂子は自分には正直に生きてきたタイプ、祐一と光子は大人しく今まで自分を抑えて生きてきている。最後にはそれが弾けてしまったのかも…。
ラストは、かなり切ない。
光子はなんだか長い夢から醒めたような感じ、祐一は。。。?
最初にも書いたけれど、この作品は登場人物が多い。けれど、読みにくさより上手く主人公達を浮かび上げている。
切ない物語の中に主人公達それぞれに、ちゃんと声を掛け心配してくれる人が出てくる。社会の中の孤独を感じている若者達だけど、本当は社会の中で誰かに助けられ、そして守りたいものがある。
だからこそ善人や悪人となってしまうのかな〜。
『容疑者Xの献身』に似た感覚…愛情表現の下手な祐一はこんな表現になってしまったのかな…ちょっと悲しいラストだけど、充分心に響く作品でした。
久々の…
>10点