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『野の風』 辻内智貴 小学館

野の風
野の風

表題+「ナコちゃん」の短編集。

「野の風」
毎日仕事に追われ妻とは喧嘩が絶えずギクシャク、小学生の息子は引きこもっている。ある日大事な商談を進めている席に父親の危篤を知らせる電話が入る…。

主人公は仕事人間で家庭崩壊まで来ていた家族が父の見舞いにと主人公の実家に戻った。そこには時の止まったような父と、東京とは違う時の流れと風景と懐かしさで、見失っていた何かに気付き始める。
一生懸命走っている時は前しか見えず周りが見えない・・そんな時に父に呼び止められたような気がする。
父親だった主人公が、息子に戻るとき…。

タイトルのように「野の風」を感じさせる爽やかさと懐かしさと淋しさ。とても短い物語だけれど、風景か目に浮かぶ。
……父は格好良くて凄い。。

9点
2006.05.30 Tuesday 08:41 | comments(2) | trackbacks(2) | 

『帰郷』 辻内智貴 坂本真典(写真) 筑摩書房

帰郷
帰郷

「帰郷」「花」「愚者一燈」の3つの短編に坂本真典氏のモノクロ写真が添えられている。どれも、過去を振り返っていることが共通しているかな。

「帰郷」
>あの人が語ってくれた田舎へ私は帰郷してみることにした。列車の窓から過ぎ去る風景と共に話してくれたふるさとの風景、いい思い出があった訳も無く、だからこそ40年間一度も帰らなかった故郷。だけど語ってくれた話のなかで出てきた人物にありがとうと言いたかった…。
 妻から見た主人公はとても真面目な人で幼い頃に苦労して上京してきたこと、そして多くは語らなかった人として映っていた。だからこそ、まだまだ知らなかったあの人の面影を探しに故郷へ向う。その故郷に向けての想いが綴られているのだが…実に切ない。地味に一生を終えたあの人を帰郷してみて、あの人そのものがジンワリ浮かんでくる。それは言葉でもカタチにも表せないものだけど。

「愚者一燈(1995・夏)」
>ずっと寝ていた。クーラーのない狭い四畳半の部屋で開けっ放しの窓から風を感じ、セミの声を聞き他所から聞こえてくる甲子園のTV放送を聞きながら。定職に付くことも無くバイトをすることさえも煩わしくなった主人公…。ふと思い出しては消え、また別のことを思い浮かべて過ごす一日が描かれている。
 考える時間が長いのがいいのか悪いのか、読み進めるのがちょっと怖いな…と思わせるが、描き綴られていくうちに主人公は一つの事に答えを出す。主人公がラストにその答えにたどりついたのが良かったかどうかは分からない。読み手としてこのことに気づかせて貰えたのは良かった。
 他の人には愚者の一日なのかもしれないが、そのなかで考えを巡らせている事は結構深い。だが本人にしてみればそれも愚者の考えと思っている。しかし、実は誰もがそんな風に思い巡らせることは出来ず、のほほんと暮らしている。このアンバランスさがもどかしいが、器用に生きられない人とはそういうものなのかもしれない。

3編に共通して出てきた言葉は、辻内さんの作品にも何度か出てくる『青空』。必ず…でもないが、迷ったり落ち込んだりしても上を見なければ見えない『青空』という言葉が出てくるのである。
どんなに切なく淋しくても、『青空』を鏡のように使ったり悩みも小さく映し出したりしている。また、包んでくれるような暖かさを感じる。先ほど書いた<読み進めるのが〜>のくだりは読んでおいてよかったと思い直した。

8点
2006.03.04 Saturday 10:24 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『ラストシネマ』 辻内智貴 光文社

ラスト シネマ
ラスト シネマ

主人公が小学三年生の時にあった、『あの夏の出来事』を、47歳になった今改めて思い出す・・・。

突然都会から帰ってきて入院してしまった雄さんは昔映画に出演した事があった。私は雄さんの話を聞くのが好きだった。世間が白い眼で雄さんを見ても、父や、和子先生、有楽座のおじさんらが、当時全盛だった映画ブームの中、たった1本の映画の1つの台詞を言った。その夢を叶えた雄さんを認めていた。雄さんはなにも動かない、しかし、生き様がみんなの心を動かした。
少年から見た、この時代の一本の映画への想いが伝わってくる。

エピローグ・は、同感に思う。以下「」内引用。
「うんざりするほどにリアルにおぞましさが氾濫し、日々その潮位が増していくような時の中で、そこにわざわざ・・・・略」
このご時世だからこそ、暖かい作品を読みたいと思う。

>私=作者に少し似た主人公の、懐かしい雰囲気はあるけど古くない。号泣したり気持ちの高ぶることはないけど、とても優しい話で良かった。

9点
2004.06.06 Sunday 22:37 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『信さん』 辻内智貴 小学館

信さん
信さん

2編の短編集。
「信さん」
今は四十代の主人公が小三の時に一緒に遊んだ二つ上の信さんはいつもそばに居た。小さい頃から母や妹の為に働く姿は主人公が大人になっても鮮明に思い出す。子どもの頃の思い出は信さんと過ごした日々だった‥ 。
三十年前・・生きていくのに必死だった信さんを、主人公の母はやさしく受け止め、家族の暖かさを知る。全速力で走り抜ける信さんが、とても輝いていた。

「遥い町(とおいまち)」
これも回想シーンの話。ずっと苛められていた朝鮮人のヨン。小さくても生きていくすべを知っている男の子の強さ・・・大人になった今、改めてヨン君の強さを知る。

8点
2003.12.07 Sunday 08:52 | comments(0) | trackbacks(1) | 

『青空のルーレット』 辻内智貴 筑摩書房

青空のルーレット
青空のルーレット

「青空のルーレット」「多輝子ちゃん」の2編。
どちらも読了後、爽やかで人間関係の優しさや繋がりが感じられ、とても心温まる話だった。
どちらが好きとは選べない・両方良い。

「青空のルーレット」
>小説家やバンド、漫画家など、それぞれが別の夢を持ちながら、窓拭きに明け暮れる職人達。
仲間の中でも妻子もちの萩原さんは、ある事故をきっかけに東栄ビルサービスを辞める事になる。。。
天気の良い、窓清掃のエレベーターの上での会話、高い階から見た風景、夢を追いかける人たちの輝きや苦悩が、とても簡潔だけど真っ直ぐに書かれている。
「人間は夢を見るから人間なんだ〜・・・」
〜と、ちょっと照れるセリフも難なく聞けてしまうから不思議だ。
単純だけど真面目な登場人物たちにとても弾かれた。
作者も、この仕事をしていたらしい、本当に見たことのある風景が書かれているのだから、それは読み手にもきちんと伝わってくる。
イイ人の周りにはイイ人しかいないのか。周りの人までイイ人にしてしまうのだろうか。

「多輝子ちゃん」
第16回太宰治賞受賞した作品。
こちらも良かった。
一人の少女が恋をする話だが、その後ずっと続いていく話はとても引き込まれる。。が長くなるので書かないが、カナリ好きである。
----ごく小さなことでも、誰かの役に立ち、それは誰かの一生を支え続けてくれるものになる。

10点
2003.10.07 Tuesday 11:50 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『セイジ』 辻内智貴 筑摩書房

セイジ
セイジ

表題と「竜二」の2編。

「セイジ」
主人公が10年前、学生最後の夏に旅先で入った「HOUSE475」。この喫茶店のマスター・セイジや店に集まる常連達と出会う。
常連の話やセイジの普段の生活から、彼はとても生き方が不器用だけれど、人間の生死について一番考えている…。そんな彼を理解し始めた頃、衝撃的な事件が起こる。
 主人公が自分の体験ではなく「セイジ」の行動や感情の動きを見ながら主人公も彼の考え方を受け止めていく・・・。ラスト辺りはあんまり好きじゃない展開でチョット残念。

「竜二」
主人公は幼なじみの竜二と二十数年ぶりに会った。そこには純粋すぎて大人になりきれてない彼が居た。
・・・。

両方とも、主人公が'生き方が不器用な友人'を通して、見たり感じたりした事をそのまま書いた、独特の雰囲気を持つ話。
主人公達は彼らとはまるで違う生活をしているし、彼達の生活の中には入っていない。
マァ真似の出来ない生活だけれど・・・。
でも、
彼らの事を分かってくれる人が一人でも居るのなら、彼達の存在はとても重いものだろう。
自分を受け止めてくれる人が居たのなら、それは幸せなんだと思う。

8点
2003.07.13 Sunday 14:21 | comments(0) | trackbacks(0) | 

『いつでも夢を』  辻内智貴  光文社

いつでも夢を TOKYOオトギバナシ
いつでも夢を TOKYOオトギバナシ

ジローは相手の事を思うが故に積極的になれず、触れてどこかに行ってしまわないように見守っている優しさ……。
洋子は、一目で気に入ってしまった彼に、何とかしてあげたい、という気持ちとは反対に、汚れた自分を見せたくないとう想い…。
…と、一緒に生活(同棲というより同居)している様子がなんとも、可愛らしい。
ラストのアノシーン(爆)は遠くから二人を見守ってるよ…と皆に応援されてるんだな〜と感じさせるところが、良かった。

読んでいて、最初気になった文章の書き方…何だろ?と思ってたけど、これも読了してみると、なるほど、この間の取り方とかが距離や雰囲気を作ってるんだな〜と。

爽やかな、ほのぼのした恋愛物で良かった。
9点
2003.04.20 Sunday 14:14 | comments(0) | trackbacks(0) | 
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